雷が怖い子の話

ゴロゴロと響く雷鳴に、だいぶ暖かくなったからなぁとウォーレンは窓の方へ視線を投げる。最も雨戸を閉めているから、外はもちろん稲光すら見えないのだが。一際大きく響いた雷鳴に、これは近くに落ちたなと独りごちていると暗い部屋の中、ケイルの声がした。

「んー、今廊下でなんか鳴いたな。子猫か子豚かなんかいるかな?」

猫はともかく豚は家の中に居ないだろう。 そう半眼になりながらもウォーレンは体を起こしてドアへと足を運ぶ。猫は多分一階にいる。二階、しかも廊下にいるであろう鳴き声の主の正体はケイルだって分かっているだろうに。そもそも聴こえたのはケイルなんだし、ケイルのベッドのほうがドアに近いんだから開けてやればいいのに……と、思うけれど、今廊下にいるであろう生き物は、何故かウォーレンの管轄に割り振られている感がある。

ウォーレンが部屋のドアを開けると、ドアが開いたのに気づいたらしく、真っ暗な廊下から「ウォーレン、ケイルゥ……」と泣き声混じりの声が聞こえた。鳴いてるどころか本気で泣いてるじゃないか。と、「子豚かな?」なんて言っていた呑気な相方に心の中で毒ついた。

「ミリアム」

ウォーレンの声に応えるように、トトッと小走りになった足音と共に、ぼふっと勢いよくお腹に突っ込んできた小さな身体を抱きとめて、「ふぇぇ」と泣き出したミリアムの頭を撫でた。廊下の雨戸は風が強くなければ閉めないが、今夜は夕方から風が強かったからしっかりと全部閉められていて、夜目すらほとんど効かない。雷鳴が怖くて部屋から出てきたら、廊下も真っ暗。そこに先程の落雷で駄目押しされたのは想像に難くない。

ウォーレンがしゃがむと首に腕を回されて、がっしり脚まで使ってしがみつかれた。どうやら余程怖かったらしい。抱き上げたミリアムの背中を撫でて宥めていると、またゴロゴロと雷鳴が聞こえて、むぎゅっとしがみつかれた。

マッチを擦る音と共に微かにあかりが灯る。2つのランタンに火を入れたケイルが、そのうちの一つをウォーレンの近くの窓辺に置いて、ミリアムの頭を軽く撫でた。

「カーマイルとファディのとこ見てくる」

大丈夫だろうけど、一応。と弟達の部屋を見に行ったケイルだが、ちらりと部屋を覗いただけで直ぐに戻ってきた。

「2人とも爆睡」

そう言って、ケイルはまだえぐえぐと泣きながらウォーレンにしがみついているミリアムの頭をわしゃわしゃ撫でる。

「もうすぐ雷も行っちゃうからミリアムも寝ような」

ケイルの言葉に答えるのは、「ゔー……」となんとも言えないミリアムの泣き声。それを聞いたウォーレンとケイルは、これはダメだ。1人じゃ寝ないヤツだ、と苦笑いを交わした。

「一緒に寝る?」
「いっしょにねるぅ」

即答したミリアムにケイルが失笑して、窓辺に置いていたランタンを手にとると、ウォーレンに部屋に入るように視線で促してきた。

「あ」

耳元で聴こえた小さな声にウォーレンが足を止める。

「おトイレもいきたい」
「……いこうか」

ケイルが喉を鳴らして笑いながら差し出してきたランタンを受け取りつつ、なんだか色々諦めた気分になったウォーレンだ。

「ゴロゴロ、まだいるね」
「そうだね」

階段を降りながら、だいぶ遠くなったけれど未だに聴こえる雷鳴に、ミリアムが口をとがらせながら言う。ミリアムを抱っこして、ランタンを持って階段を降りるのはさすがに躊躇われたので、手を繋いで階段を降りていた。まだ怖い様で雷鳴が聴こえるとぎゅうっと手を握ってくる。

それでも用を足して戻ってくれば、気も紛れたらしく、ミリアムはいつもの調子に戻っていた。

「ニーナのとこ行く?」

ニーナの寝室は一階。ニーナの部屋に向かう廊下を指して尋ねると、ミリアムはふるふると首を横に振った。

「ウォーレンとねる」
「……そう。じゃあ戻ろか」

手を繋いで部屋に戻ると、案の定ケイルはさっさと寝てしまっていた。

「たまにはケイルと寝たら?」
「ウォーレンとねるのっ」

部屋に入るなりウォーレンの手を離してトトっと小走りに窓際にあるウォーレンのベッドに駆け寄ったミリアムは、当然のように靴を脱ぎ捨ててベッドに潜り込んだ。

「明かり消すよ」
「はぁい」

ランタンのロウソクを吹き消して、ウォーレンもベッドに入るとぴとっとミリアムがくっついてきた。

「ケイル、もうねちゃった?」
「寝てると思うよ」
「ゴロゴロ、いなくなった?」
「ん、そうみたいだね」
「どこにいったの?」
「東の方、かな」
「なんでゴロゴロなるの?」
「……もうすぐ夏だから」
「なんでもうすぐ なつ だとゴロゴロなるの?」
「……ミリアム。寝ないなら自分のベッドに帰すよ」

それは嫌だ、と言うようにバサッと頭まで毛布に潜り込んだミリアムは、ぎゅっとウォーレンの腕にしがみついて、胸に擦り寄ってきた。

「おやすみなさい」
「おやすみ」


──────
ミリアム 5歳半。
カーマイルの同室の弟ファディが6-7歳位。
カーマイル 9歳
ウォーレン・ケイル13歳

火を扱いを許可されているのは、この頃は上の兄2人だけ。
ミリアムは女の子なので一人部屋。でも、幼稚園年中さん相当なので夜に起きたら雷鳴ってて真っ暗な部屋に一人は怖いよねって話。兄達が寝入るほど遅くなかったので、気づいて廊下に迎えに来てくれたけど、寝入ってたら、わんわん大泣きして、誰かが起きるまで廊下にいる羽目になったと思われ。てか、泣いてもウォーレンが起きなかったら廊下で泣き疲れて寝てたんじゃ……

寝付いたらミリアムの足がお腹にどっかり乗ってきたり、腕が首にかかってて寝苦しかったりするのでウォーレンは寝不足気味になるんだけど、ミリアムは安心してぐっすり眠ってるパターン。

ミリアムは普段から夜にトイレに起きると、真っ暗で怖いので隣の部屋の兄をどっちか起こして付いてきてもらおうとするんだけど、ケイルは何回起こそうとしても起きてくれないのに対し、ウォーレンは起きてくれるので、学習の結果、ケイルは全く当てにせず、ウォーレンを起こすようになった。そしてその後はウォーレンのベッドで一緒に寝ちゃう。
6歳過ぎ頃まではこんな感じでウォーレンにはぺったり甘える。ケイルにもよく甘える子。
ケイルは朝起きたらウォーレンのベッドにミリアムがいるから、いつの間に? と思っている。

0コメント

  • 1000 / 1000